今すぐ部下を褒めたくなる! 部下の正しい褒め方&成長する指導方法
人を「褒めて伸ばす」ことの大切さは子育ての世界では常識です。人材を育成する職場でも同じことがいえます。しかし、日本人は他人を褒めるのが苦手なことが多く、「褒める」という経験もスキルも不足しているのが現状です。そのため、部下をどう褒めていいかわからず悩んでいる人も多いことでしょう。部下を褒めることにはメリットがたくさんありますが、褒め方を間違えると逆効果になることもあるのです。この記事では、部下の褒めポイントの見つけ方や効果的な褒め方、注意点などを詳しく解説します。
この記事を読むことで褒め上手になるポイントがわかります。部下の「叱り方」とセットで身につけて、部下との円滑なコミュニケーションや指導に役立ててください。
1.部下を褒めるメリットとは
管理職は、自分の仕事以外に部下の教育・指導も重要な仕事の一つです。そのため、管理職になると研修などで部下の指導方法を学びます。その中で多くの人が苦手に感じるのが「部下を褒める」ことです。ここでは、苦手だからといって避けて通るには、あまりにもったいない、部下を褒めるメリットや効果を紹介します。
1-1.上司は部下の「褒め方」に悩んでいる
上司が部下をうまく褒められないのは、経験値が少ないことが一因にあります。日本では、日常的に他人を褒めるという習慣はないため、上司自身も自分が褒められた経験が少ないのです。中には「褒める」ことに対してネガティブなイメージを持っているケースもあります。たとえば、「褒めるのはお世辞やおだてのように感じる」「自分だったら褒められると恥ずかしいので、部下にどう声をかけていいかわからない」など、積極的になれない思いがあるのです。一方で、褒めたい気持ちはあっても、「褒めるに値するよい部分が見当たらない」「褒めても成果につながらない」など、うまく褒めることができずに悩むケースもあります。
1-2.褒めると部下のモチベーションがアップする
褒めても成果につながらないのは、多くの場合褒め方が間違っているためです。上司が正しい褒め方をすれば、褒められた部下はモチベーションがアップし、パフォーマンスが向上します。部下にとっては、上司が見ていてくれる、認めてもらえたということが何よりの褒美なのです。
1-3.部下を褒める本当の目的は「習慣化」にある
部下を褒める目的は、組織にとって好ましい行動を習慣化させることです。部下をおだてていい気分にさせてあげることではありません。部下のよい行動を認めて評価し、「褒める」ことで、やる気を出させることができるのです。部下は、褒められた行動を繰り返し行うようになり、結果としてよい行動を習慣化させることができます。
ここで大切なのは、この「よい行動」は、「よい結果」とは限らないことです。もちろん、組織にとって結果が大切なのはいうまでもありませんが、人は必ずしもよい結果を出せるとは限りません。そこで、結果につながる過程や行動を褒めることで、繰り返し好ましい行動ができる人材へと成長するのです。このような指導こそが、上司やリーダーの役割といえるでしょう。
1-4.部下の成長は上司の負担を減らす
褒められることでやる気がアップした部下は、よい行動を繰り返すことで成長します。すると、やがて「どうすれば会社の役に立つか」「よりよい仕事のためには何が必要か」を自主的に考えて行動するようになるのです。こうした部下の成長は、上司の負担を減らし、上司は自らがやるべき仕事に集中することができます。
2.部下の褒め方で大切なポイント
部下のどんなところをどう褒めたらいいのでしょう? 褒めるポイントやタイミングなどを解説します。
2-1.結果だけでなく、プロセスや行動を褒める
部下を褒めるのが苦手な人は、結果だけにフォーカスしている傾向があります。1-3でも説明したとおり、褒める対象は結果だけではありません。部下が考え、行動したことは全て褒める材料になりえます。むしろ、結果を出すまでのプロセスや行動そのものを褒めることで、次の好ましい行動を促し、よい結果へとつながるのです。
2-2.褒めるタイミングは「その場ですぐ」
部下を褒めるベストなタイミングは「その場ですぐ」です。前項で説明したとおり、プロセスや行動を褒めるときには、結果が出るまで待つ必要はありません。たとえば「途中経過」や、新しいことを「始めた」だけでも、褒める対象となります。報告を受けた時点ですぐに褒めるよう心がけましょう。
2-3.部下の「褒めポイント」を見つけるコツ
2-3-1.「いいとこ探し」の視点で観察する
部下の褒めポイントを見つけるには、まず相手をよく観察することです。このとき大切なのは、「あら探し」ではなく、「いいとこ探し」の視点で見ることといえます。どんな性格なのか、何が得意なのかなど、日頃の様子をよく見ておきましょう。「褒めよう」と思って観察を続けると、自然と部下のいいところに目がいくようになります。
2-3-2.長所が仕事にもたらす影響を探る
長所がわかっても、それをそのまま褒めたのでは意味がありません。たとえば「やさしいところがいいね」と褒めるのではなく、そのやさしさが仕事にどう生かされているかを見極めることが大切です。
2-3-3.変化を見逃さない
日頃の様子をよく見ていることで、変化があったときにいち早く気づくことができます。その変化こそが褒めるべき材料です。少しの変化に気づいてもらえたら、部下も自信を持ってさらに前に進むことができるでしょう。
2-4.褒めるとおだてるは違う
「褒める」ことと「おだてる」ことは違います。何でもやたらと褒めればいいというものではなく、ましてや部下の機嫌をとるためではありません。また、当たり前すぎることを褒めるとバカにされていると感じる部下もいるでしょう。部下のどこをどう褒めれば成長するのか、なぜ褒めるのかを明確にして、意図を持って褒めることが大切です。
3.部下を成長させる上手な褒め方
褒めるのが苦手な人は、まず「褒める」という行為そのものに慣れる必要があります。そのために役立つ実践法や効果的な褒め方を紹介しましょう。
3-1.褒め方実践法
3-1-1.褒めノートをつくる
プロセスを褒めるには、部下の行動に関心を持って見守ることが大切です。褒めることに慣れないうちは「褒めノート」をつくるといいでしょう。今部下が取り組んでいることや変化などを書きとめておくことで、褒めるポイントが明確になります。
3-1-2.1日1回は部下を褒める
始めはどんな些細なことでもいいので、1日1回褒めることを目標に設定しましょう。ただし、行動について褒めるようにしてください。褒めるという行為を「プラスのフィードバックをする」「好ましい行動を評価する」ととらえると、言葉がけもスムーズでしょう。
3-1-3.褒めパターンを知る
行動やプロセスを褒める場合、些細なことも褒める対象になります。よくある褒めパターンは以下を参考にしてください。
- 仕事の丁寧さ:書類のまとめ方・資料の分析・的確な連絡など
- 処理の速さ:スピーディーな顧客対応・納期の前倒しなど
- コミュニケーション能力:電話対応が丁寧・アポイントが増えた・お客様から高評価を得たなど
- 気配りが上手:リスクマネジメントができている・部内の連絡が円滑など
- 粘り強い:あきらめずに取り組んでいる・コツコツと積み上げるなど
- チャレンジ精神:今までできなかったことに挑戦した・反対意見でも取り入れることができるなど
3-2.具体的に理由を添えて褒める
「すばらしい」「がんばったね」などの褒め言葉だけでなく、具体的に理由をつけ加えるようにします。「いつもがんばっているね」は、一見いい褒め言葉のように感じますが、いつもこのワンパターンでは、表面しか見ていないことを部下に見抜かれてしまうでしょう。第2章で解説したように、褒めるには、相手の行動に寄り添うことが大切です。たとえば、「先日まとめてもらった資料のここがとても見やすかったよ」というように、具体的に理由を添えて褒めましょう。
4.部下を褒めるときの注意点
せっかく褒めても的外れな褒め方では部下の成長は望めません。ここでは、部下を褒めるときの注意点を解説します。
4-1.逆効果な褒め方とは
4-1-1.本人の行動とは関係のないことを褒める
本人の努力や行動、業務に関係のないことを褒めるのはNGです。たとえば、容姿・年齢・家柄などは本人の努力の結果ではなく、業務にも関係ありません。このようなことを褒められても、好ましい行動にはつながらないのです。
4-1-2.気まぐれで褒める
同じ行動に対して、上司の機嫌により褒めたり褒めなかったりするのはよくありません。このような行為は部下を混乱させます。部下は上司の顔色をうかがうようになり、十分なパフォーマンスを発揮できなくなるのです。
4-1-3.不本意に行っていることを褒める
サービス残業や休日出勤など、本人が不本意でしていることを褒めるのは避けた方が無難です。大変な思いをしているのに安易に褒めると、「上司はわかってくれない」と、かえって反感を買うことになりかねません。こういう場面では、苦労をねぎらったり感謝を伝えたりするといいでしょう。
4-1-4.特定の人ばかり人前で褒める
成果を上げている部下は褒めやすいため、褒める回数も増えるでしょう。朝礼など人前で褒めると、他の社員のモチベーションにつながることもあります。しかし、あまり回数が多いと、ねたみや嫉妬を生む可能性もあるのです。また、成果を褒めるのは、「成果を出さなければ評価されない」というプレッシャーにもなるため、多用は避けましょう。
4-2.異性の部下に対して褒める場合
部下が異性の場合、褒め方に気をつけないと誤解を招きかねません。特に、男性上司が女性の容姿をむやみに褒めると、セクハラと受け止められることもあるでしょう。部下が異性でも褒めるときのルールは同じで、相手の行動や努力に対して評価をすることです。性別にとらわれることなく仕事の内容で褒めるようにしましょう。
4-3.改善点はサンドイッチ方式で
具体的に褒めたい内容に、改善すべき点が含まれている場合もあるでしょう。そんなときは、まず具体的に褒め、次に改善点を伝え、最後に期待を伝えるサンドイッチ方式がおすすめです。こうすることで、部下も改善点を受け入れやすくなります。
「先日の資料、ここがとてもわかりやすかったよ。ただ、誤字が多かったので気をつけてほしい。次回の資料も君に頼みたいからよろしく」というように、期待をかけてしめくくるのです。
これが、改善点の指摘で終わると、上司としては褒めたつもりでも、部下にしてみれば「小言をいわれた」というマイナスの印象で終わってします。そこで、サンドイッチ方式を使って、好ましい行動を強化+間違いは修正するという両方向で、部下の成長を促しましょう。
5.部下の褒め方に関するよくある質問
部下の上手な褒め方を知りたい人が感じる疑問についてまとめました。
Q.営業成績が上がらず悩む部下をどう褒めたらいいでしょう?
A.アポイントの数が増えているとか、苦手な顧客も訪問しているなど、成果につながりそうな行動を褒めます。つまずいているポイントがわかれば、アドバイスを交えるといいでしょう。
Q.女性の部下の服装や髪形を褒めてはいけないのですか?
A.モデル事務所など、容姿が仕事ぶりに直接関係する職場を除いて、本来は褒める必要はありません。しかし、変化を褒めるという意味では、髪形が変わったタイミングで、「新しい髪形似合ってるね」などと声をかけるのはいいでしょう。
Q.部下の能力の高さを褒めるには、なんといえばいいですか?
A.「頭がいい」「才能がある」などのありきたりな言葉では、褒める価値はありません。その能力によってもたらされた成果や行動を具体的に褒めることが大切です。
Q.叱るのと褒めるのでは、どちらが部下のためになるでしょう?
A.叱るのと褒めるのでは目的が違います。部下の行動の中で、修正してほしい行いは「叱る」、好ましい行動は「褒める」と使い分けましょう。
Q.部下を褒めるときはどんな表情をすればいいですか?
A.ことさらに笑顔をつくる必要はありませんが、心から褒めるときには、上司も自然と喜びの表情になるでしょう。言葉だけでいくら言葉で褒めても、上辺だけかどうかは伝わるものです。嘘のない言葉がけが信頼関係を強くします。
まとめ
部下を褒めることは叱ることと同様に、部下の成長には欠かせないものです。結果だけでなく、行動やプロセスに注目して部下をよく観察することで、好ましい行動を発見することができるでしょう。部下は褒められることで自信を持ち、さらによい行動へと好循環をもたらします。褒めるのは苦手だからと逃げないで、褒め上手を目指しましょう。